ますだ こうじ増田 宏司東京農業大学教授(動物行動学)30雑誌「いぬのきもち」での解説コメントを担当しており、「犬の幸せ 私の幸せ」や「このくらいはわかって! ワンコの言い分」など著書も多数。動物行動学の研究を通し、飼い主と愛犬の双方が幸せに暮らせる社会を目指している。 日常生活において、愛犬の記憶力に驚かされたことがあるでしょうか。散歩のルートをいつの間に覚えたんだろう、なぜおやつがここに入っていることを覚えているんだろうなど、実は多くの方が愛犬の記憶力の良さを、日々実感されているはずです。犬は物事をその時々の感情(例えば快/不快)と関連付けて記憶します。一方で、私たち人間のように、物事をストーリーとして記憶するのは苦手です。断片的ともいえる犬の記憶ですが、うれしいときに覚えたことは、うれしい記憶として残ります。あなたとの散歩が楽しいから、そのルートも楽しい道として覚えたのでしょうし、大好きなあなたにほめられて、ご褒美をもらえてうれしかったから、「オスワリ」の命令にいつでも喜んで従ってくれるのです。 人間の言葉(単語)を1022個も覚えた犬の研究があります。この犬が有名になったのは十数年前ですが、それまでは200ほどの言葉を覚えたら大騒ぎだった犬の記憶力の世界の常識をはるかに上回る成果でした。実はこの犬もまた、それぞれ別の名前が付いたおもちゃの中から飼い主が指示した名前のおもちゃを正しくとってきたら、飼い主にそのおもちゃで遊んでもらえる、という楽しい経験を重ねながら、これほどまで多くの単語を覚えたのです。この研究は同時に、飼い主という大好きな人間と一緒に、楽しい/うれしい経験を重ねると、犬は喜んでその能力(記憶力)を最大限に発揮し得ること、それだけ犬にとって人間は大切な存在であることを示しています。犬が覚える人間の言葉の平均は90程度であることが研究で明らかにされています。愛犬と一緒に楽しい生活を送って、自己ベスト記録に挑戦してみてはいかがでしょうか。Column犬は楽しいこととうれしいことを覚える
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